この記事は税理士法33条の2に規定されている「書面添付制度」について解説した記事です。
以前、元査察(いわゆるマルサ)の方とご一緒する機会がありました。
その方は「書面添付がされていると、仕事がやりにくかった」と言っていました。
正に、最強のお守りです。
税理士はクライアントから確定申告の依頼を受けて申告書を提出する場合、一定の事項記載した書面を添付することができます。
この「書面」を添付して、申告書を提出すると、税務調査において大きなメリットが生まれます。法人、個人は問いません。
■書面添付のメリット
・書面添付を行うと、クライアントに税務署から直接、連絡が行かず、必ず税理士に連絡が入ります。
・無予告で事務所に踏み込まれることが無くなります。(悪意がある場合を除く)
・税理士が連絡を受けた際に、確定申告の内容について、意見を申し述べる機会が税理士に与えられます。
(事前意見聴収)
・事前意見聴収で税務署が納得すれば、税務調査は行われません。(調査省略)
・事前意見聴収でミスに気が付いた場合、税務調査の通知が来る前に修正申告をすれば、加算税が掛かりません。
(延滞税は掛かります)
つまり、税理士と税務署での意見のやり取りで、税務調査が完結し、
クライアントの事務所に調査官が乗り込むことはありません。
税務調査の資料準備に時間を取られることはありません。
税務調査対応のために、予定を空ける必要がありません。
クライアントにとって、非常にメリットの大きい書面添付制度ですが、その分、税理士の確認事項、書面作成の手間が増えます。そして、必ず調査省略を保証するものではありません。税務署の疑問が解消されなければ、現地調査が行われます。
書面添付制度とは「最強のお守り」、メリット大
書面添付とは、「申告書に最強のお守り」と説明しています。
書面添付を行うと、税理士に事前意見聴収の機会が与えられます。
事前意見聴収とは、税務署が税務調査の必要性を感じたときに、まず税理士に連絡をします。
そこで、添付された書面を基に、申告内容について、税理士に説明を求めます。
その説明で税務署が納得すれば、調査省略となり、税務調査は行われません。
書面添付を行うと、税務調査が行われる可能性がかなり低くなります。私の経験では、事前意見聴収行った後に税務調査になったことはありません。調査省略が100%です。
書面添付制度はメリットが大きい
税務調査がくる可能性が限りなく小さくなるとすると、クライアントにとって非常に大きなメリットになります。
適切に帳簿処理を行っていたとしても、税務調査は来ます。
調査に来ても何も出てこないから、問題ないかもしれませんが、実際に調査に入られてしまうと
・事前の資料準備に膨大な時間が掛かる
・調査日程のすべてではないが、社長の予定を何日か空けてもらう必要がある。
・そうは言っても、会社や経理担当者への精神的負担が大きい
数々のデメリットがあります。
それが、確書面添付を行うことにより、回避できる可能性が大幅に上がるのならばメリットは大きいです。
また、必ず連絡が税理士に行き、よほどの悪意がある場合を除き、無予告で税務署に踏み込まれる心配がなくなります。
これは、使わない手はありません。
さらにメリット、加算税が免除される
税務調査により、間違いを指摘され、修正申告をします。そうしますと加算税(足りなかった税額の10%割増)が発生します。
書面添付を行っていると、もし、申告書の内容に間違いがあったとしても、事前意見聴収から調査実施までの間に自分でその間違えを修正すると、加算税が発生しません。(延滞税は発生します)
これも書面添付活用のポイントになります。
書面添付制度の概要
書面添付制度は、税理士が確定申告書の内容、根拠を税務署に代わって精査する制度
税理士法33条の2に規定する書面添付制度とは、税理士が確定申告書を作成する上において、計算し、整理し、又は相談に応じた事項を記載した書面を添付することができる制度です。
法人、個人問わず、1年に一度、確定申告書を税務署に提出する必要が有ります。確定申告書は、利益の金額から様々な調整計算を加えて、1年間の税金の金額を計算する書類です。
確定申告書には、税金の計算過程が記載されますが、何故その数字になったのか、何故その利益になったのか、根拠の記載はありません。
その数字の根拠は、領収証や請求書などの書類、会計帳簿などになるのですが、この書類と帳簿をすべて税務署に提出はできません。
膨大な量になりますので、税務署も困ります。確認しきれません。
そもそも、日本は「申告納税制度」という制度を採用しています。
申告納税制度とは、納税者が自分で正しく数字を集計して、正しい申告書を作成することが前提になります。
税務調査を行う必要がない旨を書面をもって、税務署に宣言する
提出された申告書の数字が正しいことが前提で、その数字に疑問がある場合に、税務調査が行われます。
税金の計算の根拠となった領収証や請求書、会計帳簿を確認しに現地に乗り込んできます。
確定申告書を自分で作成すると言っても、当然、税務の専門知識が必要になります。税務の世界は複雑怪奇でなかなか理解に苦しむところが有ります。
そこで、税務の専門家として、クライアントの手助けをするのが税理士です。
税理士は税務に関するアドバイスや、会計帳簿の整理、申告書の作成を行います。
書面添付制度は、そこから一歩踏み込んで、どんなアドバイスを行ったのか、どんな会計帳簿の整理をしたのか、どんな計算をして申告書を作成したのか、その詳細を書面に記載して、申告書に添付することができる制度です。
これにより、税金の計算過程を積極的に説明することにより、税務署の疑問を晴らし、調査の必要がない旨を宣言する制度です。
メリットは大きいが、なかなか普及が進まない
クライアントに大きなメリットがある書面添付制度ですが、なかなか普及が進みません。
財務省の平成30年事務年度の実績評価報告によれば、書面添付制度の利用状況は、所得税で1.4%、法人税で9.5%、相続税で20.1%となっています。所得税では70件に1件、法人税では10件に1件の割合でしか、書面添付されていません。(所得税は元々、税理士の関与の割合が低いことが影響しています)
クライアントのメリットが大きいのに、何故、活用が進まないのでしょうか?
嫌がる税理士が多い
税理士にとって、書面添付制度は手間のかかる制度です。
単純に作成する書類の量が増えますし、記載する内容も吟味する必要があります。
日本税理士会のホームページでは、税理士向けの書面添付の説明ページで、税理士の声として下記のように紹介されています。
余分な仕事のようで煩わしい。書面を添付した結果、思いもよらない責任を追及されたらかなわない。一度提出して、その後やめたら、痛くもない腹を探られないか
そうではなくて、メリットを十分理解して、書面添付を推進しましょうというのが日本税理士会のスタンスですが、この一文に税理士の本音が出ていると思います。
クライアントに安心を提供するため、手間を増やして、報酬も増額して頂ければ、税理士として言うことはありません。
しかし、税理士の書面添付制度に対する理解不足から、クライアントに上手く説明できず、報酬もそのままで、何だかよく分からない手間だけ増える。
何よりも、書面の内容に虚偽があった場合、税理士が懲戒の恐れがあります。
せっかくクライアントにとって、メリットの大きい制度なのに、税理士がリスクの大きさに尻込みをしている様です。
クライアントの積極的な協力が必要
書面添付制度は、積極的に税金計算の根拠を明らかにして、税務調査が不要である旨の宣言をする制度です。
積極的に根拠を明らかにするためには、当然、クライアントの積極的な協力が必要になります。
書面には、
・どんな資料の整理を行ったか?
・クライアントからどんな資料の提示を受けたか?
・勘定科目ごとに、どんな確認を行ったか
・昨年と比較して、大きな増減があった勘定科目についてその理由
などを記載します。なかなか大変な作業です。
クライアントとの確認作業、打ち合わせが長くなり、負担が掛かります。
中には、税務署に対して情報を明示することに消極的なクライアントもいます。
無理強いはできません。
調査省略を保証するものではない
書面添付制度は「税理士が精査していますので、税務調査を行う必要がない旨を書面をもって、税務署に宣言」する制度です。
表現が中途半端です。「宣言」とは何でしょうか?
税理士が発行する品質の保証書と言いきれれば良いのですが、書面添付制度は必ずしも調査省略を保証するものではありません。
私の経験では、調査省略にならなかった事はないのですが、それはあくまで経験上の話です。
保証できれば、もっと活用が進むのでしょうが、残念ながら保証は出来ません。
しかし、調査が実施される可能性は間違いなく低くなります。このメリットは大きいです。
まとめ
書面添付制度は、クライアントにとって「最強のお守り」になります。
事前意見聴収という、税理士と税務署のやり取りで現地調査が行われない可能性が非常に高くなります。
どんな会社が税務調査に狙われやすいのか?それは分かりません。
税務調査に入られたらどうしようと心配するのであれば、書面添付制度を活用して、事前にその可能性を下げることが賢明です。
手間もかかりますし、税務署に積極的に情報を提供して藪蛇にならないか、そんな心配もあるかもしれませんが、
調査省略や加算税免除の機会が与えられるメリットの方が大きいのは間違いありません。
税理士が消極的で、なかなか普及しない制度ではありますが、検討の価値は十分あります。